マイクロウェルチップ
各種細胞が形成する「スフェロイド」、ES/iPS細胞が形成する「胚様体」、神経幹細胞が形成する「ニューロスフェア」は、いずれも細胞同士が凝集化して形成する三次元球状細胞集合体であり、スフェロイドは肝細胞などの高機能培養法、胚様体は幹細胞から機能性細胞への分化誘導の初期ステップ培養、ニューロスフェアは神経幹細胞の未分化培養法として利用されています。我々はこれら細胞集合体を総称して「ミクロスフェア」と名付けています。
既存のミクロスフェアの形成・培養技術では、煩雑な操作が必要、スフェアサイズの制御が難しいなどの問題を抱えていました。我々は、微細加工技術と基板表面修飾技術を利用して、簡便な操作で均質なミクロスフェアを大量に形成、培養、回収できる「マイクロウェルチップ」を開発しました。このチップは、様々な細胞において容易にミクロスフェアを形成・培養できる汎用的な技術であり、チップの設計条件を変えるだけでスフェアサイズを任意に制御できることから、現在、新しい細胞培養プラットホームとしての展開を進めています。
ミクロスフェア転写技術
「マイクロウェルチップ」は、均質なミクロスフェア(肝細胞スフェロイド、ES/iPS胚様体、神経幹細胞ニューロスフェアなど)を浮遊条件下で大量形成・培養することができるため、形成されたミクロスフェアを低侵襲かつ簡便に回収することが可能です。しかしながら、回収したミクロスフェアを接着基板上に再播種すると、スフェア同士の融合や不均一な接着が発生します。そこで、浮遊状態で大量形成されたミクロスフェアを接着基板上に規則的に接着配列できる「ミクロスフェア転写技術」を確立しました。この技術を利用して、例えば形成させた胚様体を規則的に再接着させ、分化誘導刺激を行う研究などを実施しています。
ミクロ培養環境と幹細胞分化特性の関係
ES/iPS胚様体は、細胞同士が凝集化した細胞集合体であることから、その内部の物質移動現象や細胞間相互作用、力学的作用などは胚様体サイズによって異なり、その結果として幹細胞の分化特性は胚様体サイズに依存することが知られています。また、同一培養系内に胚様体が多数存在する場合、隣接する胚様体の相互作用(干渉作用)が発生し、その結果として幹細胞特性に影響を与えることが考えられます。すなわち、胚様体を取り巻くミクロ培養環境は幹細胞特性を左右する重要な因子といえます。
我々が開発した「マイクロウェルチップ」は、胚様体の形成を自由自在に設計することができます。そこで、胚様体のサイズや胚様体間距離、胚様体数などを変化させたマイクロウェルチップを作製し、胚様体を取り巻くミクロ培養環境が幹細胞の分化特性に与える効果の評価やそのメカニズムの解析などに取り組んでいます。さらに、同様な検討を神経幹細胞が形成するニューロスフェアにおいても実施しており、この技術を利用して神経細胞への分化誘導の研究も取り組んでいます。