北九州市立大学 中澤研究室ホームページ

細胞パターニング技術

 既存の培養ディッシュやプレートでは、局所的な細胞分布(細胞密度の粗密)が発生することが多く、細胞の機能発現や分化特性にバラツキが生じやすくなります。そこで、培養系内における細胞状態を均質化させるために、細胞マイクロパターニング技術の研究に取り組んでいます。機械的微細加工技術、ソフトリソグラフィー、フォトリソグラフィー、分子プリンティング、親疎水界面形成などの技術を利用して、培養基板上に細胞接着面と非接着面を設け、培養細胞を精密マイクロパターニングすることに成功しています。これらの技術は、各種の細胞チップ開発や細胞の特性を探る基礎研究に利用しています。

細胞パターニングチップ

肝細胞チップ

 平板培養基板上に細胞接着面と非接着面を規則的に設け、肝細胞をマイクロパターニング培養できる「肝細胞チップ」を開発しています。細胞が殆ど増殖しない初代肝細胞では単層細胞パターンの形成、細胞が増殖する株化肝細胞ではスフェロイドのアレイ化を行うことができます。マイクロパターン培養した肝細胞は、従来のランダム培養よりも高機能を発現することができ、パターン条件によって機能発現が異なることを見出しています。

ECMチップ

 コラーゲン、フィブロネクチンなどの細胞間隙に存在する細胞外マトリクス(ECM)は、細胞の接着、生存、機能発現などに影響を与える重要な因子です。細胞の種類によって、ECMの作用は全く異なるため、細胞に適したECMを選択することは細胞培養において重要です。そこで、基板上に各種のECMをマイクロパターニングし、細胞−ECM間の相互作用を評価できる「ECMチップ」を開発しています。

脂肪細胞チップ

 肥大した脂肪細胞から分泌される悪玉アディポサイトカインは、「メタボリックシンドローム」として知られる生体内代謝異常を引き起こす要因の一つであることが知られています。そこで、前駆脂肪細胞をマイクロパターニングした「脂肪細胞チップ」を作製し、薬剤刺激による脂肪細胞への分化(善玉および悪玉アディポサイトカイン分泌や脂肪滴の蓄積など)誘導研究を行っています。この技術は、メタボリックシンドロームの基礎研究や機能性食品の評価法へと展開することが期待できます。

共培養細胞パターニングチップ

 ソフトリソグラフィーの一種であるマイクロステンシル法を利用して、異なる細胞を精密共培養できる「共培養チップ」を開発しています。この方法は、培養基板に貼り付けたマイクロステンシル(貫通孔を有する薄膜シート)を用い、シートを剥がすという単純な操作で、異なる細胞をマイクロパターニングする技術です。本手法を利用して、異種細胞間相互作用が生存や機能発現に与える効果の解析を行っています。

ライブファブリケーション技術

 現在、細胞パターンを形成する基板作製技術には、ソフトリソグラフィー、フォトリソグラフィー、分子プリンティングなどが利用されています。しかしながら、これらの技術では細胞接着あるいは非接着領域の形成がマスクやモールド形状に依存することから、培養期間中にパターン形状を変更させたり、新たなパターンを追加することは不可能です。このような既存技術の限界を克服する方法として、近赤外(NIR)応答性ゲルを利用した細胞パターニング技術を開発しました。
 「ライブファブリケーション」と名付けた本技術は、光熱交換能を有するカーボンナノチューブ(分子ヒーターの役割)と熱によってゲル−ゾル転移するアガロースゲルを複合化(NIR応答性ゲル)し、NIR 照射による局所的なゾル化を誘導することによって、細胞接着/非接着を制御するというものです。この技術を利用することによって、自由自在な細胞パターンの形成や段階的な細胞パターンの形成が可能となり、現在、共培養、細胞遊走アッセイ、ミクロ組織体形成などへの展開を進めています。


 
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