ACC合成酵素のリン酸化に関する研究
  立木美保(農業技術研究機構・果樹研究所) 

 エチレン生合成経路の律速酵素であるACC合成酵素は、転写段階で制御されていると考えられていたが、近年、ACC合成酵素が転写段階だけでなく、翻訳後の制御を受けている可能性が示唆された。そこで、トマトの傷害誘導型LE-ACS2を用いて、翻訳後修飾機構について解析した。

 まず、ウエスタンブロットによりLE-ACS2組織からシングルバンドとして検出した結果、LE-ACS2の分子量はcDNAの塩基配列から推定される分子量と一致した。このことにより、細胞内ではC末端が切断されて活性化するという機構が誤りであることが明確になった。

 次にLE-ACS2のリン酸化の有無について解析した。傷害を与えた果実に、32P無機リン酸を取り込ませ、特異抗体で免疫沈降し、SDS-PAGEで解析した結果、LE-ACS2がリン酸化されていることが明らかとなった。更に、大腸菌に発現させたLE-ACS2を基質とし、果実からのkinase画分を用いてin vitroリン酸化系を確立し、この系を用いてリン酸化部位の決定を行った。C末端領域を欠失した変異体LE-ACS2を基質としたin vitroリン酸化実験から、リン酸化部位がC末端領域であることを示し、C末端領域に対するペプチドを基質としたin vitroリン酸化実験から、460または462番目のSerがリン酸化されることを証明した。そこで460、462番目のSerをGlyに置換したLE-ACS2変異体を基質として、in vitroリン酸化反応を行い、リン酸化部位が460番目のSerであると同定した。  

 C末端領域の、460番目のセリン残基の近傍のアミノ酸配列を比較すると、F/LRLSF/Lという配列がいくつかのアイソザイム間で保存されていた。in vitroリン酸化反応をから、この配列を含むアイソザイムがリン酸化され、含まないものはリン酸化されなかった。このことより、アイソザイムの中でも、リン酸化の有無が異なることが示唆された。リン酸化状態がACC合成酵素の活性に与える影響を調べたが、in vitroにおいて、リン酸化の有無により活性は変化しなかった。

 本研究とこれまでの報告から、以下のような機構を推論した。ACC合成酵素は翻訳後、kinaseによってリン酸化され(リン酸化自体は活性に影響しない)活性を発現する。しかし、phosphataseによってリン酸基が外れると(活性には影響しない)、ETO1様タンパク質(ETO1:Arabidopsisエチレン過剰生成変異体の原因遺伝子がコードするタンパク質で、ACC合成酵素活性を抑制する)が結合して、活性を失うという機構である。また、アイソザイムによって、この制御機構を持つもの、持たないものが存在し、タンパク質レベルで異なる制御を受けている可能性を示唆した。

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