植物のアスコルビン酸生合成と生理機能
豊田中央研究所 田畑 和文ビタミンCとして知られているアスコルビン酸(AsA; L-ascorbic acid)は、動植物の生存にとって必須な生体物質であり、強力な還元作用をもつことが知られている。ビタミンCの生理作用に関しては、近年医療分野等で注目されており、抗ガン剤や抗ウイルス剤として、また、疲労回復や美白効果など広く効果が報告されている。植物では、AsAは高濃度に生産され、光合成や環境ストレスから生じる活性酸素を除去していると考えられている。また、AsAは細胞分裂・伸長にも深く関与していることが示唆されているが、その機構については明確になっていない。
AsAの生合成に関する研究は早い時期から行われており、動物ではその生合成経路が明確にされている。一方、植物においては、その生産量にも関わらず生合成経路はほとんど分かっていない。しかしながら、近年の活発な研究により、植物のAsA生合成経路が徐々に明らかになりつつあり、その経路は動物に比べて非常に複雑かつ巧妙であることが分かってきた。最近、カリフラワーやサツマイモにおいて、AsAの前駆体とされているL-ガラクトノ-1,4-ラクトンをAsAへと変換する酵素L-ガラクトノ-1,4-ラクトンデヒドロゲナーゼ(GalLDH)が精製され、一次構造が決定されるとともに、GalLDHが植物におけるAsA生合成の最終酵素である可能性が示された。
そこで、我々はAsA生合成経路の最終酵素と考えられているGalLDHに焦点をあて、本酵素遺伝子をセンス方向、アンチセンス方向に導入したタバコ形質転換体の作製を行った。得られた形質転換体のAsA含量を調べるとともに、その形質や特徴について詳細な解析を行い、植物におけるAsAの生理機能について考察した。本発表においては、我々が作製したGalLDH形質転換タバコの解析をもとに、植物におけるAsAの生理機能(生体防御、細胞分裂・膨張、細胞構築)や、近年急速に解明されつつある植物のAsA生合成経路について紹介する。
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