イネの電位依存性カルシウムチャネル候補遺伝子(OsTPC1)の
同定と機能解析

東京理科大・院・理工・応用生物科学 来須 孝光 

 植物が光、温度、乾燥、病原菌感染など多種多様な環境変化に応答する際、細胞質中のCa2+濃度([Ca2+]cyt)の時間的・空間的変動が、細胞内シグナル伝達系において中心的な役割を果たすと考えられている。しかしCa2+シグナルが細胞内でどのように仕分けされて特異的な応答反応を引き起こすのかについては、殆ど明らかになっていない。その大きな理由は、Ca2+を動員するイオンチャネル等の分子的実体が殆ど解明されていないことにある。
 最近我々はイネから膜電位依存性Ca2+チャネル候補遺伝子OsTPC1を単離した(2002年日本植物生理学会大会; Plant Cell Physiol. 45: 693-702)。この遺伝子は植物体全体で発現し、ゲノム上に1コピーのみ存在していた。またGFP融合タンパク質の一過性発現解析の結果、OsTPC1は細胞膜に局在していた。その機能を解明するために、過剰発現体を作製すると共に、レトロトランスポゾン(Tos17)の挿入による機能破壊株(Ostpc1)を単離した。
 Ca2+取り込み能が低下している出芽酵母のcch1変異株にOsTPC1 cDNAを導入したところ、生育と45Ca2+取り込み能が共に相補された。また培養細胞の増殖に対するCa2+感受性は、過剰発現株では増大し、Ostpc1では低下していたことから、OsTPC1はCa2+透過性のイオンチャネルとして機能する可能性が考えられる。
 通常生育下における植物体の表現型を観察したところ、過剰発現体では、発現量に応じて生育遅延・矮化・枯死等の変化が見られた。また培養細胞にタンパク質性エリシターを処理して、過敏感細胞死を伴う防御応答を誘導したところ、過剰発現体ではエリシターに対する感受性が高まり、特定の分子種のMAPキナーゼの活性化や一連の防御応答が亢進された。Ostpc1では逆に防御応答が抑制され、エリシターにより細胞死は殆ど誘導されなかったが、Ostpc1に野生型のOsTPC1遺伝子を導入したところ、エリシター応答性は回復した。こうした結果は、OsTPC1が、感染防御応答や成長制御などの広範なシグナル伝達過程に関与していることを示唆している。

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