オーキシンを介した側根形成に関する分子遺伝学的研究
奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス研究科 深城 英弘植物の地下部を構成する根系は、発芽後伸長する主根と、主根の内鞘細胞から形成される側根によって主に構築される。我々は植物の根系の構築にとって重要な側根形成の分子機構を解明することを目的として、シロイヌナズナを用いた分子遺伝学的アプローチにより、側根形成に関わる遺伝子群の機能解析を行なっている。具体的には、側根を完全に欠失するsolitary-root (slr) 変異体とその原因遺伝子であるIAA14(オーキシン誘導性遺伝子Aux/IAAファミリー)を用いた分子遺伝学的解析を中心に、側根形成に関わる遺伝的制御の分子基盤の解明を目指している。
我々がシロイヌナズナから単離したsolitary-root (slr) 変異体は優性変異により、1)側根を全く形成しない、2)根毛をほとんど形成しない、3)根と胚軸の重力屈性が異常となる、4)オーキシンに対する感受性が低下する、などの表現型を引き起こす。これまで側根形成初期マーカー(CycB1;1::GUSおよびEnd199)を用いた解析から、slr-1変異が側根形成の初期段階つまり内鞘細胞の細胞分裂を抑えていることを明らかにした。この結果は、SLR遺伝子が側根原基の形成初期の細胞分裂・細胞分化に関わることを強く示唆した。SLR遺伝子はオーキシン誘導性遺伝子Aux/IAAファミリーのIAA14をコードしており、slr-1変異体および別のアリル変異体slr-2では、IAAタンパク質の安定性に関わる保存された領域domain IIにミスセンス変異が生じていた。他のIAA遺伝子の機能獲得型変異体がdomain IIに同様のミスセンス変異を持つことや、IAAタンパク質のdomain IIに関する他グループの機能解析などから、slr変異体では、本来不安定なIAA14タンパク質が変異型IAA14タンパク質となって安定化したと考えられる。また、slr変異体ではオーキシンによって発現が上昇するBA-GUSマーカーの発現が低下することや、slr変異型IAA14タンパク質とGFPとの融合タンパク質が核に局在することなどから、IAA14タンパク質がオーキシンによる転写調節機構において、負の調節因子として働くことが示唆された。現在、SLR/IAA14遺伝子によって発現が制御される下流遺伝子を同定する目的で、かずさDNA研究所が保有する約13500個のシロイヌナズナESTが載ったcDNAマクロアレイ(シロイヌナズナアレイコンソーシアムで作製)を利用し、野生型とslr変異体とで発現に差のある遺伝子を網羅的に同定する試みを行なっている。
また側根形成においてSLR/IAA14と遺伝的に相互作用する遺伝子座を同定する目的で、slr変異体の側根欠失表現型を抑圧するサプレッサ−変異体の単離を試みた。EMSにより変異原処理した約5000粒のslr-1種子の次世代約30万個体から、側根形成を行なう系統を多数単離した。それらはIAA14遺伝子領域内にさらに別の変異が生じた遺伝子内サプレッサ−変異体(slr-1R1~slr-1R4)と、他の遺伝子座に変異を持つ遺伝子外サプレッサ−(slp, slr suppressor)とに分類された。遺伝子外サプレッサ−変異体であるslp1、slp2、slp3はそれぞれ単一劣性変異であり、slp slr 二重変異体において側根形成のみが回復されるが、他のslrの表現型(根毛形成異常・重力屈性異常)が回復されない。したがってSLP1、SLP2、SLP3遺伝子は側根形成特異的にSLR/IAA14と遺伝的に相互作用すると考えられる。現在SLP遺伝子群の単離を目指して、遺伝子座の詳細なマッピングを進めている。発表論文
Fukaki, H., Tameda, S., Masuda, H., and Tasaka, M. (2002). Lateral root formation is blocked by a gain-of-function mutation in the SOLITARY-ROOT/IAA14 gene of Arabidopsis. Plant J. 29, 153-168.
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